婦人科
ジエノゲスト(新提案・ピルとは別の保険ホルモン治療)
目次
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ピルからジエノゲストへ ~ホルモン治療first choiceのパラダイムシフト ~
ピルからジエノゲストへ ~ホルモン治療first choiceのパラダイムシフト
婦人科でのホルモン剤というと、ピルを思い浮かべる方が多いと思います。
しかしピルには血栓症という命を落としてしまう副作用があることも事実で、ピルを内服できない方もいらっしゃいます。
そのような方にも使用可能な薬剤がジエノゲスト(商品名;ディナゲスト)です。
毎日1日2回の内服を、妊娠したいと思う時まで、または閉経になるまで、内服を継続します。
ジエノゲストには血栓症の副作用がないので、10歳代から50歳くらいまで(つまり初経から閉経まで)の多くの女性に適応があります。
新型コロナウイルスが世界中で蔓延して以来、血栓症に関してより配慮が必要な情勢も鑑み、当院ではピルと同等、むしろホルモン治療の『ファースト チョイス』としてジエノゲストを提案致します。
※日本産婦人科学会/日本産婦人科医会では、ピルとジエノゲストは月経困難症の治療に関して有効性があると提唱しています。
『産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編 2023』
日本産科診療ガイドライン:日本産科婦人科学会・日本産科婦人科学会 2023年版 - PubMed (nih.gov)
Guideline for gynecological practice in Japan: Japan Society of Obstetrics and Gynecology and Japan Association of Obstetricians and Gynecologists 2023 edition,
J Obstet Gynaecol Res. 2024 Apr 16. doi: 10.1111/jog.15950. Online ahead of print.
ピルとの違い
①血栓症の心配がない=誰でも使用できる
ピルと違ってエストロゲン(女性ホルモン)が入っていないので、血栓症の副作用がありません。つまり、年齢が高くても喫煙や片頭痛がある方でも、体質を気にせずに内服できます。また、コロナに罹患した際も継続して内服可能です。
※ただし原因不明や悪性腫瘍での異常出血がある方、大きな内膜症や筋腫、粘膜下筋腫のある方、乳癌の方などは使用できません。
②月経がこなくなる=子宮や卵巣を守る効果が高い(プレコンセプションケアになる)
ジエノゲストは、黄体ホルモン単剤の治療薬です。妊娠に近い状態にして月経困難症や子宮内膜症を治療します。
近年、毎月おこる月経そのものが、子宮や卵巣にダメージを与えることがわかってきました。排卵が起こることで炎症物質や痛みの原因になる物質が放出されたり、自分のエストロゲンによって、子宮筋腫や子宮内膜症などのエストロゲン依存性疾患が悪化してしまうのです。(※月経困難症の章をご参照下さい。)
ピルに関しても従来の周期投与(毎月月経を起こす方法)よりも、連続投与(約3~4か月ごとに月経を起こす方法)のほうが、スタンダードの治療になりつつあるのも、『月経の回数を減らすこと=子宮や卵巣を守ること』という考え方からきています。
つまり、月経が完全になくなるジエノゲストは、子宮や卵巣を守る効果は高いといえます。
また、PCOS(多のう胞性卵巣症候群)のような排卵障害で月経が来ない方も、将来不妊症になったり子宮体癌になったりするリスクが、そうでない方に比べて高いといわれています。そういった方にも、子宮や卵巣を守る効果の高いジエノゲストはおすすめです。
『生理って、こなくて大丈夫なの?』『ずっと生理をこさせないで、妊娠しづらくならないの?』という質問を、患者さんのみならず、お母さま方からもよく受けます。
毎月、自分の体から出るホルモンや炎症物質で子宮や卵巣にダメージを負ってしまうゆえに、不妊症になる可能性があります。そのような物質を放出させないホルモン剤を使用することで、不妊症のリスクを下げること(プレコンセプションケア)になります。
妊娠したいときになったらジエノゲストを中止すれば、月経が再開し良い状態で妊活をスタートできます。
ただし、5~10%は排卵するといわれていますので、コンドームの併用など別の避妊方法が必要です。避妊の適応はありません。
③鎮痛効果が高い=痛みの完全消失→快適!!(※一部の方にはあてはまらないこともあります)
ジエノゲストは、痛みの神経にも作用するという報告があり、ピルよりも鎮痛効果が高い率です。
7-8割の方に、痛みの完全消失が見られるといわれています。
④ホルモンの変動がない=月経や月経前の不快症状がフリーになる
月経がないわけなので、ホルモンの変動がありません。つまり、PMS(月経前症候群)も原理的にはおこりません。
⑤自分の女性ホルモンは少しだけでている=更年期や閉経になるわけではない
内服している間は、月経はこなくなりますが、閉経にする薬と違って自分のエストロゲンは少しだけ出ているので、更年期や閉経になるわけではありません。
ディナゲストの本体はプロゲステロンという月経の後半にでているホルモン製剤で、妊娠中のような状態をイメージいただくのが近いかもしれません。
ただし妊娠中のように大量のホルモンが放出されているのではなく、とてもマイルドに作用しますので吐き気などの副作用も少ないです。
とくにジエノゲスト0.5㎎錠は、自分の体からでているエストロゲンをほとんど変動させません。ピルに関しては、日本のガイドラインでは月経が来て間もない思春期女性には、
骨代謝への影響を考慮して使用すべきとの注釈があります。しかしジエノゲスト0.5㎎錠は、骨代謝回転を下げないというデータがあります。つまり思春期世代10歳代の方にも、安心して使用できる保険の薬剤なのです。更年期症状や副作用も出にくい傾向があります。
⑥吐き気がでにくい=スムーズに導入できる
ピルよりは使い始めの症状に吐き気の副作用がありますが、ジエノゲストは出現頻度が少ないので、吐き気の副作用でピルが内服できなくなった方におすすめです。
⑦全て保険適応の薬剤=続けやすい
●ジエノゲスト錠1㎎
適応病名:子宮内膜症
子宮腺筋症に伴う疼痛の改善
1mg錠;1041円/月
●ジエノゲスト錠0.5㎎
適応病名:月経困難症
=保険のピル(LEP)と同じ適応!
0.5mg錠;771円/月
資料;持田製薬提供
※1回1錠、1日2回の内服です。
※後発薬の場合の値段です。薬局では処方料も追加されます。
★まとめ
ジエノゲストは、ピルよりも痛みへの効果が高く子宮や卵巣を守る薬、偽閉経療法(GnRHaアナログ)よりもマイルドな薬です。月経で困っている方、ピルが体に合わない方は、ぜひ試してみてください。
ジエノゲスト Q&A
Q1:ジエノゲスト、不正出血が多いと聞きました・・・
●なぜ不正出血が多いのか
ジエノゲストはピルに比べ不正出血が起きやすいです。
9割の方が、不正出血を経験します。特に内服し始めの半年間は、少し不快かもしれません。
出血がおきやすい理由として、内膜を偽脱落膜化させる作用と、卵胞の発育を抑制しエストロゲンの上昇を抑制させる作用があるため、内膜が厚くならず、薄くはがれやすい状態になってしまい、不正出血が起きやすくなります。
(参考文献;Irahara M, et al. Reproductive Medicine and Biology 2007; 6: 223-8)
ジエノゲスト内服して数か月、長ければ半年は、不正出血がおきやすいです。
中には月経と同じくらいの量が出て、びっくりされる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし普段の月経と違い、痛みはとても軽くなっているのに気づくと思います。
筋腫や子宮腺筋症などの器質的疾患の悪化で不正出血が持続する場合は、レルミナ(7220円/月)という薬を3-6ヶ月使用した後、ジエノゲストを再開する工夫をしますが、それでも軽快しない場合は手術療法になります。
●ピル(LEP)との出血の違い
こちらは私がよく講演会で使用するスライドで、ジエノゲストとピル連続投与とを比較して、グラフ化してみました。
どちらも出血しながら、結局はおちつきます。ピルは3か月ほどで出血はおちつくのに対し、ジエノゲストは6カ月近くかかる場合もあります。
どちらも出血とともに痛みも軽快しますが、より痛みと、副作用の吐き気が少ないのが、ジエノゲストです。
そしてピルは連続投与でも定期的な出血がおこるのに対し、ジエノゲストは最終的には出血フリーになるというイメージです。
ジエノゲストとピル、どちらがいいのかは実際に内服する患者さんの好みです。
当院ではしっかり情報提供した上で、どのホルモン剤を使用するか、患者さん自身に決めてもらっています。
そして、お好みのものを使い始めていただき、それぞれの薬剤で不都合があればその都度相談しています。
●ジエノゲストで安定した状態になったら・・・
つまりジエノゲストを約半年ほど内服継続できれば、月経のない安定した生活が待っています。
血栓症のリスクがなく、痛みや出血、PMSなどがある月経自体をなくしてしまうので、とりあえずとても楽なんです。
いままで月経困難症でつらい思いをしていた患者さんが、月経フリーになれるジエノゲスト。一度落ち着いた生活を手にしてしまうと、『もう月経のある生活にはもどれない!』とおっしゃる患者さんも多いです。
ただし1割の方は不正出血など不都合な状態が残ってしまう場合がありますので、その場合はピルなどの別のホルモン剤を使用します。
Q2:ジエノゲストは1日2回の内服ですが、面倒に感じてしまいます・・・
患者さんや他のドクターから良く聞くのが、『1日2回の内服、メンドーです』問題です。
ジエノゲストは半減期が約7時間なので、こればかりは仕方がありません。
ただ、いちど習慣化してしまえば、意外と皆さん内服継続できています。
おススメは食卓においておき、朝と晩の食事のあとに、キシリトールガムのような感覚で習慣にしてしまうことです。
もし飲みわすれた場合は、その時点で内服してください。朝に飲み忘れをよくする方は、カバンに入れておいて、学校や職場で気づいた時点で内服するのも一案です。
ただし0.5㎎錠を2錠まとめて1回で内服する場合は、最も不正出血がふえたという海外での報告がありますので、あくまで緊急対処法です。
持田製薬ツールの、飲み忘れ対策アプリをLINE登録すると、さらにしっかり対策できます!
Q3:ジエノゲストはピルのように避妊はできますか?
ジエノゲストの避妊効果は、残念ながらピルよりも弱いです。
5-10%は排卵がおこる可能性があるといわれています。
(参考文献;Klipping et al. J Clin Pharmacol 2012; 52: 1704-13)
ただし、ジエノゲスト以外の方法でも100%の避妊法はありません。
性感染症の予防としても、コンドームの併用は重要です。
避妊さえできていればいいという考えだけでは、女性の幸せにつながるヘルスケアを考える上では不十分です。HIVや梅毒は不治の病ではない時代にはなったとはいえ、クラミジア感染症など不妊症になりかねない性感染症も未だに多いです。
女性にとって、人生に陰を落としかねない性感染症と予期せぬ妊娠の2つのリスクを、ホルモン剤とコンドームの併用で防ぎましょう。自分と相手を守りましょう。
Q4:ジエノゲストを長年内服して快適な生活を送っていますが、もうすぐ50歳になります。
閉経になったらやめましょうと言われていますが、それっていつですか?
生理自体がしばらくないので、よくわかりません
50才前後になったら、辞め時です。
日本人の閉経の平均年齢は50才です。
閉経になれば、ジエノゲストを内服せずとも月経がないので、婦人科の病気(筋腫や子宮内膜症などのエストロゲン依存性疾患)は落ち着きます。
つまり内服する必要がなくなるので、ジエノゲストを中止します。
50歳、という年齢以外に、採血上のホルモン値を目安にする方法があります。
文献によると、エストラジオール20 pg/ml 以下およびFSH80mIU/ml 以上になったら閉経、という報告もあります。しかし直近4ヶ月の数値しかあてにならないという報告もあるくらい、ホルモン値は気まぐれに変動することも多いです。
閉経後もたまに排卵がある方もいらっしゃいます。
実臨床では、患者さんの症状や診察所見を目安にして中止する方が現実的です。ホットフラッシュの症状がでていたり、子宮内膜症病巣の著明な縮小などがあれば、閉経に近くなっているのかなと考えて、私は50才をすぎたら、いったんジエノゲストをやめてみることを提案します。ただし、稀少部位内膜症での月経随伴性気胸で内服している方は、しっかりFSH・E2を測定してから辞めるようにしています。
しかしジエノゲストで快適な生活を送れている患者さん自身は、また大変な月経が再開する可能性を考えると、ジエノゲストは止めたくないと考える方は多いと思います。
だからといって、必要のない薬を継続することは得策ではありません。骨粗鬆症やメタボリック症候群などの更年期・老年期のヘルスケアに治療をシフトすることも重要です。
まずはいったんジエノゲストを辞めてみて、やはり月経が再開してしまったら、潔くすぐ、痛みが出現する前に再開することを、私は患者さんと約束してから中止するようにしています。
■月経再開の確実性の高いカットオフ値
E2≥17 pg/mLおよびFSH <100 mIU/mL
■閉経の確実性の高いカットオフ値
E2<20 pg / mLおよびFSH≥80 mIU / mL
Endocrine Journal 2022 69 巻 12 号 ページ 1437-1445 Uehara
ジエノゲストの内服をご検討中の方へ
当院ではすでに、ピルよりもジエノゲストの処方の方が多くなっています。
思春期世代の方、生理痛やPMSがつらくてピルの処方を考えている方は、完全保険対応のジエノゲストの方が向いていることが多いです。
ご本人が何に困っていて、医療に何を求めて来院されるのか、当院ではお一人おひとりにあわせたオーダーメイドの治療をしています。
まずは画像診断や血液検査の上、診断をしっかり行ったうえで、適応を守りながら、各治療のリスク・ベネフィットをお示し致します。
その上で、ご希望にあわせた処方を致します。
どの治療をするか選択するのは患者さん自身です。
いったん治療を始めてみたけれど、やっぱり別の治療がいい等、変更することも自由です。
その都度相談しながら、ご自身にとってベストなホルモン剤を使用しましょう。
最大限サポートさせていただきます。
持田製薬資料
※医療関係者の方へ
ジエノゲストの副作用である、不正出血について、患者さんにご説明資料として下記の資料をお使いください。
(クリニック名とロゴはそのまま記載をお願いいたします)
(※適切な使用をした場合)
(クリニック名とロゴはそのまま記載してください)
オンライン診療の開設 ※当院でジエノゲスト・ピルを内服中の方限定
当院ではジエノゲスト・ピルを半年~1年以上内服して状態が落ち着いている方に関しては、オンライン診療を導入予定です。
ただし、半年毎には来院していただき診察や検査を施行致します。
症状や特別なご相談がある方も来院が必要です。
定期的に診察をしっかり受けていて、安定している方限定でオンライン診療の対応を致します。
対象の方やオンライン診療のタイミングについては、来院時に個別にお伝えします。
皆様が通院の負担をできるだけ減らしながら、ホルモン療法を継続できますようサポート致します。