更年期障害とは
日本人女性は、50歳±5歳で閉経(=月経がなくなる)といわれています。
閉経前後5年の合計10年間の時期を更年期といいます。
この閉経までにたどり着く間、卵巣から分泌される女性ホルモンはゆらぎながら減少していきます。
更年期には、女性ホルモンのゆらぎと減少に体がついていけず、血管運動症状、身体症状、精神症状など多彩な症状が現れることがあります。これを更年期症状といい、閉経後も女性ホルモンの減少に体が慣れるまでは症状が見られることもあります。
更年期症状には個人差がおおきく、全く症状が現れない人もいれば、症状がひどくて、日常生活に支障が出る程の人もいます。日常生活に支障をきたすような病態を更年期障害といいい、婦人科での治療対象となります。
しかし内科や外科の病気や精神科の病気が、更年期症状に隠れている事があるので、この時期の不定愁訴を更年期障害ときめつけず、症状に対する専門外来を受診して、基礎疾患を否定することも大切です。特に鑑別が重要なのは、甲状腺疾患とうつ病ですが、その他に心血管系・神経脳外科系の疾患や免疫代謝異常の疾患もあります。
更年期障害は、夫や自分の退職、子供の独立、親の介護等、しばしば社会文化的な環境因子も原因になっているといわれています。
更年期障害の診断
簡略更年期指数:SMI
簡略更年期指数(SMI)は、更年期の症状の程度を判断するものです。
10項目の症状に応じて点数を入れ、その合計点をもとにチェックします。
判定&解説(自己採点の結果)
● 0~25 点
じょうずに更年期を過ごしていて今のところ問題ありませんが、年1回の健康診断を受けましょう。
● 26~50点
バランスのよい食事、適度な運動を行い、無理のないライフスタイルを送り、更年期障害の予防につとめましょう。
● 51~65点
産婦人科または更年期外来、閉経外来を受診し、薬などによる適切な治療、生活指導、カウンセリングを受けましょう。
● 66~80 点
長期間(半年以上)の計画的な治療が必要でしょう。
● 81~100点
各科の精密検査を受けましょう。更年期障害のみであった場合は、産婦人科または更年期外来、閉経外来などで長期の計画的な治療が必要でしょう。
更年期障害の検査
一般的には採血でホルモン検査をしますが、ホルモンの数値は閉経前後は大きな変動をするため、参考値にとどめるとの見方もあります。
またホルモンの数値は現在の状態を表してはいますが、『〇か月後に閉経する』などといった閉経の時期を予測することには向いていません。
更年期障害の診断と治療は、ホルモンの数値によって方針を決めるのではなく、その方の症状や背景など、包括的に評価して、相談しながら進めていきます。
むしろ、更年期の時期には糖尿病や高脂血症などの生活習慣病や骨粗しょう症も併発しやすい時期なので、生活習慣病に関する採血や骨密度などを、合わせてチェックすることが重要になってきます
更年期障害の治療
ホルモン補充療法
●ホルモン補充療法(HRT)とは
ホルモン剤には飲み薬、張り薬、塗り薬などがあります。
ホルモンの種類はエストロゲンと黄体ホルモンという2種類のホルモンがあります。
エストロゲン欠乏症状が更年期障害や骨粗しょう症の原因になることを考えると、エストロゲンのみの補充で十分と考えがちですが、黄体ホルモンも併用しないと、子宮体がんのリスクを高めるといわれていますので、子宮を手術で摘出していない方であれば、2種類のホルモン剤を導入します。しかし合成黄体ホルモンは乳癌のリスクと関係がありますので、より自然に近い黄体ホルモンを選択していきます。
●HRT(ホルモン補充療法)の実際について
生理のように出血を周期的にここさせる間歇療法と、出血をおこさせない持続療法があります。
ホルモン剤の選択や使用方法には様々なバリエーションがあり、ご本人にあった薬や投与方法を、医師と相談しながら決定していきます。
使用中に問題が発生した場合や、疑問が生じたときに、親身になって相談に乗ってくれる、信頼できる婦人科の主治医がいれば心強いと思います。
ただし基礎疾患や体質が原因で、HRTができない方もいます。
HRTはその種類や量により、リスクやベネフィットが異なるため、婦人科医とよく相談しながら、その方に適した薬をオーダーメイドのような感覚で処方や調整をしていくことが大切で、これが正解という答えはありません。
重要なのは、ご本人と医師がよく相談し、ご本人がリスクとベネフィットを良く理解・納得したうえで治療していく信頼関係です。
●HRT(ホルモン補充療法)の副作用について
[マイナートラブル]
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出血(⇒子宮体がんがないか内膜細胞診でチェックする)
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乳房腫脹・乳房緊満感
[増加する疾患]
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動静脈血栓症
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脳卒中
[増加する可能性のある疾患]
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乳癌
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卵巣癌
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肺癌
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冠動脈疾患
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肝機能障害
●HRT中のフォローについて
[毎回]
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症状の変化やマイナートラブル(出血・乳房腫脹・血栓症の有無など)を含めた症状の問診
[ 6か月~1年毎]
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ホルモン療法の継続について検討・相談する
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血圧・身長・体重の測定
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血液検査(血算・肝機能腎機能・脂質・血糖値・血糖・ホルモン値等)
[ 1年毎]
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内診・経腟超音波検査
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子宮頸癌・子宮体がんの細胞診検査
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乳房検査
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骨粗しょう症検査
●HRTができない方
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子宮体がんや乳がんの既往がある方や現在治療中の方
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血栓症や塞栓症の既往がある方
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重度の活動性肝疾患の方
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心筋梗塞および冠動脈に動脈硬化性病変の既往のある方
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原因不明の不正性器出血がある方
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妊娠の可能性がある方
●HRTに注意が必要な方
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卵巣がん、子宮内膜がんの既往のある方
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子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症の既往がある方
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肥満の方
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60歳以上または閉経後10年以上の新規投与の方
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血栓症のリスクのある方、冠攣縮および微小血管狭心症の既往のある方
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慢性肝疾患のある方
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胆嚢炎や胆石症の既往のある方
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コントロールできない重度の高血圧、糖尿病、高中性脂肪血症の方
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その他に喫煙、偏頭痛、てんかん、急性ポルフフィリン血症、全身性エリテマトーデス( SLE )などの方
治療の時期~いつから初めて、いつまで続けるか~
閉経後早期(5年未満)からの使用や5年以内の使用なら乳癌のリスクを挙げないという報告、60歳未満からの使用では脳卒中のリスクをあげないという報告があります。
また子宮筋腫や子宮内膜症を悪化させるという報告もあります。
医師との信頼関係のうえで、ご本人のリスクよりベネフィットが上回る場合でかつ、ご本人がリスクを納得されていて継続希望の場合は継続していきますが、やめる時期については医師とよく相談することが大切です。